日本、だーい好きになるわよ!

ブルック・テイラー

 
 

パリを拠点とする「エクスペリメンタル・ラグジュアリー」のファッションデザイナーとして、私のパートナーと私は 「ノーマル」または「従来型(コンベンショナル)」の境界を押し広げるハイファッションの分野を手掛けている。 川久保玲、山本耀司、イッセイ ミヤケが先駆者として日本で始まったムーブメントだ。 クールな巨匠たちは、1980年代からパリのランウェイを支配し、今でも世界中のファッションやデザイン業界に影響を与えている。

日頃から日本の伝統的なデザインと最先端の両方のフアンだった私たちは 「貴方たちは日本をだーい好きになるわよ!!」 と言われ続けてきた。

エクスペリメンタル ラグジュアリー:アガノビッチ&ブルック・テイラーとナナ・アガノビッチ デザインによる「Garden of Forking Path」。

だから、ついに日本で一週間過ごすチャンスを得たとき、どれほど興奮したか想像してみてほしい。しかも観光客としてではなく、着物の心髄を探すまさに巡礼者として! 絹織りや着物職人たちに会うプロモーションツアーに招待され、京都市と京都府北西部の美しい海岸線に位地する京丹後を訪れた。主催者は着物需要の減少を懸念し、絹織物の伝統と多様性は新しい波を作るヨーロッパのデザイナーに紹介する価値があると考えたのだ。 我々の創造性を取り入れ、より多くの西洋の人々に届けることができればと期待した。

千年前の平安時代に生まれた伝統工芸、着物。

アガノビッチ 「アサッシン」。絹を広める

伝統的な布地をコンテンポラリー・スタイルで

日本上陸:東京。夜の渋谷、早朝の上野公園散策、そして仕入れ業者がいる銀座を訪ねた。 にぎやかで、華やかで、緑も多く、平和で、シュール…東京は、想像していた以上に多様な側面を持つ街だった。

多面性のある街、東京

アガノビッチの販売店。‘ノーマル’の境界線を広げるドーバーストリートマーケット銀座 

ヴィンテージ生地で作られたアガノビッチの衣装

上洛:次に向かった京都が5日間の拠点になったことはどれほど幸運だったか。そこから工場やスタジオを見学する 旋風ツアーに突入。着物を作る工程の各職人さんたちは、絹糸染、手織り、京縫い (刺繡)、友禅染の技法を惜しみなく共有してくれた。

京丹後の若い織職人兼サーファーとアガノビッチ・デュオ。

侍をモチーフにした着物生地

京丹後のヴィンテージ織り機

京丹後、金沢、大阪を巡り、観光と食の経験が点在する素晴らしい旅だった。まるで嗅いだことがない香りを聞いたときや、舌の味らいが経験したことがない味を口にしたときのように、この旅の体験を言い表すことができないことに気づいた。

金沢南部の神社参拝後のナナ・アガノビッチ

私も多くのヨーロッパの若者のように、まずは月並みの日本文化にはまった。ジェームズ・クラベルとDJ Krushを介してサムライ、忍者、マンガ、寿司は初心者向けのセットに最適だった。

しかし、リアリティはより複雑であるだけでなく、日本特有の姿を理解するのは(特に日本語を話せない場合)ほとんど不可能なレベルだと感じた! 例えば、芸者(京都では芸妓と呼ばれる)をめぐる数十年間の誤解を挙げよう。 異文化なのに白黒はっきりさせようとする西洋人は、芸者はいったい何をしているのか、多数の本や映画が扱っているにもかかわらず(もしくは、それらが誤解を生んだためなのか)いまだ理解していない。

地元の人々と出会い、職人技と匠の精神について学んだ豊富な経験を思いながら、パリを拠点とするパターンカッターのサツコが以前言っていたことが理解できた。「贈り物はその包装の方が、はるかに重要なのよ。」

何故日本で、素晴らしい食文化、陶器、しつらいから、茶道や枯山水に至る崇高な体験ができるのか。サツコの言葉に全て答えがあると思う。 日本人が物事に対して敬意を示し、あらゆる努力に心を注いでいることにつながるのだ。

「枯山水」禅庭

カニの御馳走で私たちを喜ばせたシェフ、見事な真珠色の儀式用着物を披露した刺繍職人、ご自慢のサーフボードまで見せてくれた若き織職人。さらに割れた形跡がある器が出て戸惑う私たちに「金継ぎ」(純金を用いる修復技法)を説明してくれた300年続く、ミシュラン星獲得店の女将。彼ら全員の優しさとおもてなしに感動した。同時に、私たちはまだ、かろうじて表面を触る程度の知識しかないのだと感じざるを得なかった。

西陣織、装飾品、インテリアを作る京丹後のトップメーカー、民谷螺鈿による真珠色の着物。

京都は私たちも大好きな障子の引き戸のようだ。動かせる半透明の建具は、明かりを取り入れつつも、文化の神秘は不透明なまま。近寄れない距離を保つかのようだ。

旅の終わりに近づき、ある種の橋を持つことの重要性に気づいた。 最初の一歩、敷居をまたぐときに案内してくれる人だ。だから、古くからの友人たちが Genji Kyoto (源氏京都)をオープンすると聞いて嬉しくなった。しかもすべての観光スポットに近距離ながらも人混みや騒音から離れた魅力的な地域だそうだ。私たちの次の冒険の旅には、なんとも完璧な拠点!

「日本だーい好き」の認定ジャンキーとして、もう少し障子を開けて、本当に素晴らしい世界に入り込むのが待ち遠しい!

伝統家屋の障子

ムードボードに京都からのスウォッチ布も

次の旅の出発準備は万端!

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