建築から体験する真の日本

ジェフリー・ムーサス

発見と喜びをくれる細部にこだわったデザイン

こちらはどこの写真かわかりますか?

Genji Kyoto (源氏京都) の建築コンセプトは、素材感や空間を意識しつつ、内と外の空間を限りなく融合させ、真の日本を体験できるよう追求したものです。コンセプトの根底には『源氏物語』の舞台となった平安時代以降、数世紀に渡り日本の建築に自然に表現されてきたものがあります。

素材感 - 木の刻印

木造建築の伝統を誇ってきた日本ですが、現代の建築基準では3階建以上の商業建築を木造にするのは防災の面からも推奨されていません。源氏ホテルでは「杉板型枠(すぎいたかたわく)」という技法で新材にも木質感を残しています。杉板型枠とは、建物の内外装のコンクリートに、杉板の痕跡を化石のように残す日本ならではの技術です。これにより、コンクリートに自然な木の模様ができるだけでなく、よりソフトで温かみのある印象を与えることができます。(動画参照)

コンクリートに杉の木目を写しだす手法を説明するジェフリー・ムーサス氏 (建築設計 · 統括)撮影:ユー · アポストール · ムーサス

和紙の光の演出

当ホテルのロビーからご覧いただける上部の窓は、手漉き和紙を使った独特の現代建築要素です。窓からの移り変わる自然光により空間に自在に変化をもたらせます。

 

Genji Kyoto (源氏京都) 正面から望む和紙パネルのガラス窓

 

和紙は1,300年の歴史を持つ日本の伝統工芸であり、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。その長い歴史の中で、窓、ドア、間仕切り、家具、美術品、祭祀の用具等に使われてきました。

しかし、楮(こうぞ)の繊維でできた紙は、その有機的な性質ゆえに、現代の建築物に使用するのが困難なことも事実です。

和紙作家‧堀木エリ子氏は、この伝統的な技術に革新的な技術を加えてルネッサンスを起こし、和紙に新たな活路を見出したのです。

ホテルの建築家ジェフリー・ムーサス氏と和紙アーティストの堀木エリ子氏

和紙パネル設置に向けて

堀木エリ子氏とのコラボレーション

堀木氏とのコラボレーションにより、ロビーの窓には特注の大型和紙パネルを建築の一部として組み込むことで外観と内装の間に見事な効果を生み出しました。昼、夜、晴れ、曇りの日、光の強さや方向が異なるたびに外観は変化し、内部空間は様々な雰囲気を味わうことができます。

現代建築と手漉き和紙

和紙アーティスト堀木エリ子が語る

空間構成ー平安建築へのオマージュ

ホテルの設計は、以前この敷地にあった町家の本来のプロポーションを維持することを考慮しました。典型的な町家のレイアウトは千年以上前の平安時代に端を発する奥に中庭を持つ細長い民家建築です。 これを反映し、ホテルの2棟の建物は日本庭園をイメージした橋で結ばれています。各部屋は町家のレイアウトに倣い、ほぼすべての部屋から鴨川や東山、あるいは坪庭の景色を眺めることができます。

町家の構造は、通りに面した店、奥に生活の場、裏には蔵、そして、それぞれをつなぎ、風通しの役割を果たす坪庭。「ジャパニーズ・ガーデン・デザイン」より(マーク・ピーター・キーン著)

坪庭とは、源氏物語に登場する平安時代の寝殿造り建築が起源とされ、千年の時を超えて進化し続けてきました。小さな庭は今日の日本建築にも受け継がれ、内部と外部空間を明確にせず、双方をつなぐ役割、更に風通しをよくする効果があります。客室にはこの坪庭が自然なクロスベンチレーションを可能にし、内部と外部に一体感を持たらせます。

寝殿造には、庭や池の横を通るはなれに続く廊下があり、外と内の空間もつなぐ。「ジャパニーズ・ガーデン・デザイン」より(マーク・ピーター・キーン著)

庭から気と活力を

ホテルの2棟の建物は日本庭園をイメージした橋で結ばれています。渡り廊下も庭も源氏物語からの発想です。

東棟と西棟の間にある大きな中庭は、建築と自然を融合させる役割を果たし、このホテル(プロジェクト)の生命力を高めます。ガーデンデザイナーのマーク・ピーター・キーンが語るように、庭は空間全体に気と生命力を呼び込むからです。実際に東棟と西棟をつなぐ中庭を渡るロビー階の橋は、上階のルーフ階まで同様に橋を渡る雰囲気を残し、建物全体にランドスケープを感じる造りとなっています。

チーフディザイナーであるニューヨーク生まれジェフリー・ムーサスはマサチューセッツ工科大学で学んだ京都在住の建築家で、1994年より日本在住、Design 1st を設立しました。これまでに、町家、茶室、蔵、寺院など、40件以上の日本の伝統的な建築物の修復・再設計を手がけてきた。また、愛知県にある400年の歴史を持つ仏教寺院の改修にも携わり、現代的な納骨堂の作品がある。