京都ディスカバリー: 河井寛次郎記念館

京町家と地方の民家を融合した過去の住宅をそのまま公開している数少ない建造物。

デザイン、アート、建築がお好きなら、河井寛次郎の家を訪れても期待を裏切ることはないだろう。何世代にもわたって陶芸家や職人に影響を与えた素晴らしい日本人芸術家の本物のスタイルと人間性を発見できる貴重な場を提供してくれる。

非凡な男と建造物

河井寛次郎 (1890-1966) は、1930年代からの自宅にした古民家と町家が融合したような独特の現記念館を設計しただけでなく、寬次郎のデザインが生かされた家具や調度類、美術品のほとんどを製作した。

町家でありながら素朴な田舎の家でもあるこの家は、一般公開されている数少ない京都らしい住宅のひとつである。外観は、京町家に見られる千本格子や矢来の意匠を取り入れているが、屋内は、地方に見られる囲炉裏付の板敷広間や古色仕上げの材、漆塗りの建具があり、四方の窓と障子が、光と影のダイナミックな遊びを生み出している。そして、西洋風の家具がしっくり納まって、和と洋の微妙な融合を示している。

河井寛次郎は球体を好み、庭にはあえて球体の石を選んだ。

魅了される家と生きる博物館

寛次郎が子や孫たちと住んでいた当時のまま残されたこの家には、陶芸、彫刻、木工、書道など、寛次郎の膨大な作品と、国内外の無名の地方の作家が作った工芸品のコレクションが展示されている。

オリジナルの家具とクリエーティブなデザイン

この生きた博物館は、色とりどりの花瓶や籠に生けられた花が点在し、友人の家を訪れているような雰囲気を醸し出す。 入ることを禁じている箇所はひとつもない。自分のペースで隅々まで散策し、作品に触れ、家具に触れ、猫を撫でることができる。この作家が座っただろう椅子に腰掛けてみると、人間工学に基づいた椅子の座り心地に驚かされる!

寛次郎の孫娘で、記念館の学芸員である鷺玉枝さんは、寛次郎の人生と作品について各地で講演を行った。 取材された際には、「来館者に開放感を味わってほしい。この家はただ物を見るだけの場所ではなく、時間を過ごす場所だと感じてほしい」と語った。

「物を使ったり触ったりすると、壊れたり変化したりするものです。 でも、寛次郎自身、形あるものはいずれなくなると信じていた人ですから、それは当然のことなのです」と、鷺さんはウェブマガジン 『life x art』 に語っている。 彼女は祖父のことを、『科学者の目と詩人の心を持った人』 だったと語った。

地方の職人による生活用品よりも高尚な芸術が評価されていた時代に、民藝運動の創始者の一人である寛次郎は、伝統工芸の復興に重要な役割を果たした。

登り窯のある家

何百年も前から焼き物が発展してきた五条坂にある大きな登り窯に目をつけ、生まれ故郷の島根県から京都に移り住み、ローンを組んで窯を入手し、その周りに住み家を建てた。

寛次郎の作品は、中国や韓国の磁器の模倣から、この登り窯を使用して、民藝運動のシンプルで機能的な工芸品、そして慣習にとらわれない独自のスタイルへと発展していった。

火が消える。時代の終焉

窯は、熱が効率的に上昇するように傾斜面に建てられ、8つの部屋があり、近隣の20世帯ほどと共有していた。 五条茶碗坂というサイトのインタビューで鷺さんが回想しているように、窯が使われていないときは、子供たちが窯の周りでかくれんぼをして遊んでいた。 1、2ヶ月に一度、窯が焚かれた。 職人たちが焼き物を持ち寄るのだ。焼き上がりは1,300度に達し、48時間もかかる。 誰もが固唾をのんでその出来栄えを待った。

陶芸を営む職人たちは緊密な仲間であり、何世代にもわたって技術と発見が受け継がれてきた。寛次郎はその生涯を終えるまで、国内外の職人たちに刺激を与えながら仕事を続けた。5年後の1971年、京都では窯の使用が禁止され、河井寛次郎邸の火は永遠に消えた。

作品自身が刻印

寛次郎とその息子、そして現代の陶芸家たちとの対話をもとに 『私たちはひとりで仕事をしているのではない』 という小冊子を書いた研究者の内田淑子氏によれば、寛次郎は「素朴さの尊厳を理解し、尊重する人......。気取らない土の男たちに深い愛情を抱き、彼らの素朴さを自分の一部にしている。」と。

寛次郎は質素に暮らし、作品に刻印を残さず、人間国宝の受賞を含む公の栄誉をすべて辞退した。 陶芸家や紙漉き職人たちに芸術を存続させるよう勧め、より洗練された中国や朝鮮の磁器しか需要がなかった時代に、彼らの作品を展示‧販売する場を見つける手助けさえした。

そして、日本の美術工芸品は、ゆっくりとした終焉を迎えるのではなく、新たな息吹を見出し、今日まで繁栄してきたように思われる。

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