源氏町家の浮世ノ庭
町家や茶室の中に設けられる坪庭の中でも、源氏町家の「浮世ノ庭」は、おそらく最も小さな部類に入るでしょう。しかし、この庭は現代的な解釈を加えた日本庭園の美しい一例であると同時に、その小さな空間に大きなメッセージを秘めています。
庭の景色が物語を語る。椿の木の下には小石が立てられ、流れゆく川の勢いを表しています。その石の川の上には苔むした球体がひとつ、まるで浮かんでいるかのように置かれています。
陽の光がさしこむと、縁側に映る影が石の繊細な模様と鮮やかなコントラストを描き出します。
球体に自然に生えた小さな植物たちは、手水鉢や石灯籠といった無機質な素材で彩られる伝統的な庭に、有機的な生命の息づかいをもたらしています。
この庭と源氏京都のロビー中庭の禅庭を手がけた造園家マーク‧ピーター‧キーン氏は、球体を自ら手づくりし、野で採取した苔を植え付けました。この庭に「浮世ノ庭」という名を与えたのは、源氏町家と「浮世」という言葉のあいだに、二つのつながりがあるからだといいます。
「『うきよ』という言葉は、もともと仏教に由来し、『憂世』すなわち、移ろいやすくはかない、この苦しい現世を意味していました。
「古い時代の日本では、そのような漢字で書かれていたのです。
「しかし時を経て、同じ発音で異なる漢字 『浮世』 が使われるようになると、その意味は『憂き世』から『浮世』へと変わり、いわゆる歓楽の世界、遊郭を指すようになったのです。
「遊女や歌舞伎役者、力士たちが集うその世界で活躍した人々を描いた木版画は『浮世絵』と呼ばれました。」キーン氏は続けます。
「この庭と『浮世』の最初のつながりは、この町屋周辺が、かつて遊郭だったことにあります。今はもうその姿はありませんが、昔はそういう場所でした。」
そしてもうひとつのつながりについて、彼はこう語ります。
「二つ目のつながりは、私たちの地球そのものが『浮世 ― 浮かぶ世界』であるということ。
「地球は儚い自然の層をまとい、銀河とともに宇宙を漂っています。
「私がモルタル素材で作り、苔を植えたこの球体は、この庭の中にある 『浮世 ― 浮かぶ世界』を表しています。」
お客様もまた、異文化に触れ、 過去に想いを馳せ 、そして今この瞬間を楽しみながら過去と現在を行き来するように旅を「浮遊」しておられるのかもしれません。「浮世ノ庭」は、 古き良き時代を懐かしむと同時に、 未来への成長と再生の象徴でもあります。
柔らかな陽光と風を呼び込み、内と外をゆるやかにつなぐ京町家には欠かせない要素、日本古来の「庭屋一如(ていおくいちにょ)」庭と建物がひとつに溶け合うという理念に基づいています。
キーン氏設計の「浮世ノ庭」は、ジェフリー‧ムーサス氏が改修を手がけた源氏町家の中にあります。
上:妙心寺塔頭 天球院
下:Genji Kyoto の中庭 浮舟庭