源氏町家 - 心地よさの真髄が紐解かれる場所

明治時代の町家を心を込めて再生した 源氏町家別館は、ホテル「源氏京都」からわずか徒歩約2分、鴨川のほど近くの静かな一角に佇んでいます。建築家ジェフリー‧ムーサス氏(Geoffrey Moussas)の手によって、町家暮らしの気品と現代の快適さが融合した空間へと生まれ変わりました。

鴨川のほとり、町家が連なる静かな角を曲がった先に見える二階建ての源氏町家。ガラスブロックのファサード、趣あるヴィンテージの扉とランプ、そして町家特有の軒下には飾り窓をあしらった曇りガラス。2階を見上げれば、特徴的な出窓が目を引きます。その外観は、これからこの家の中で繰り広げられる物語を、静かに予感させてくれます。

内装は、 伝統的な情緒と現代的な快適さが融合しています。数百年の歴史に培われた日本のデザインや職人技、文化的遺産だけでなく、機能と美学の繊細なバランスから生まれる「心地よさ」。源氏町家別館は、そのすべてが一体となった豊かな滞在体験へとあなたをいざないます。

物語の始まり

玄関を一歩踏み入れば、そこは別時代へとタイムスリップしたかのようなラウンジです。昭和時代のランプでしょうか?ミッドセンチュリー様式の家具でしょうか。正確に言い当てるのは難しいものですが、それらが醸し出すこの部屋の雰囲気はすでに、確かな『時代』という個性を纏(まと)っています。

木製フレームのロビーチェアは、戦後の日本で洋式生活のために設計された初期ものの一つです。モケットグリーンの布地は、近代化へ突き進んでいた時代の象徴である鉄道の座席を彷彿とさせます。ここでは、お酒を嗜んだり、読書や会話を楽しんだりと、ゆったりとした時間をお過ごしいただけます。

4名様のダイニング空間

源氏町家でのダイニングは、心地よいひとときを演出します。ローズウッドのダイニングテーブルはなめらかな手触りで、4名様でもゆったりと囲める大きさです。同じくローズウッドの椅子は、セット品ではありませんが、高さ、スタイル、質感ともに驚くほど完璧に調和しています。これらはすべて、北欧デザインを時代の象徴へと押し上げたデンマークの職人によるミッドセンチュリーの名作です。

 
 

このテーブル(および2階の畳の間にある座卓)にて、当館のシェフやスタッフが3段のお重箱に入った「町家特製朝食」を心を込めてご提供いたします。また、お客様ご自身で調理器具完備のスタイリッシュなキッチンカウンターと広々としたシンクでお料理を楽しむことも可能です。浄水専用の水栓も設置しており、新鮮で美味しいお水をエコスタイルで供給いたします。

洗練された和の空間

ダイニングを通り抜けると、和室リビングが広がります。ここは家族が集い、くつろぎ、町家には欠かせない「坪庭」を眺めるための多目的スペースです。

 
 

かつての日本家屋では、一つの部屋が昼は居間や食堂、夜は寝室となり、時には客間や書斎としても使われてきました。

このリビングには、快適なソファベッド、吊り床(つりどこ)、ヴェルナー‧パントンがデザインしたタタミチェアをしつらえました。ガラスの引き戸の向こうには、太陽の光と自然を室内に招き入れる「浮世ノ庭」が広がります。

浮世ノ庭

ランドスケープ‧デザイナーのマーク‧ピーター‧キーン氏が「おそらく最も小さな部類に入るでしょう」と語る庭園は、その規模を遥かに超える大きなメッセージが込められています。

 
 

椿の木の下に広がる小石は、川の流れを表しています。この「川」には、キーン氏が各地で採取した苔を使い、自らの手で作り上げた球体が浮かんでいます。

それは、広大な銀河を漂う私たちの地球。うつろいゆく時のなかで、人類を乗せて果てしない時空を旅する姿を象徴しているのです。

 
 

『うきよ』という言葉は、移ろいやすくはかない、すべての存在が無常であることの表現でもあります。

この地がかつて「五條楽園」と呼ばれた花街であり、浮世絵に描かれたような遊女や歌舞伎役者が集った場所であったことを考えると、この「浮世」という隠喩は、この地の歴史に深く根ざしたものと言えるでしょう。

吊り床と檜葉風呂

吊り床に掛けられた軸には「笑ってみな咲って 僕はみんなの笑顔好きだから」と記されています。この言葉が放つ「生きる喜び(Joie de vivre)」は、仏教的な至福の理想を表現しています。

"笑ってみな咲って 僕はみんなの笑顔好きだから" 

~ チャイ・ラン

 
 

暖簾の向こう側は、檜葉のお風呂があるバスルームです。一般的に「檜(ひのき)」と思われがちですが、こちらはより耐久性が高く、抗菌作用と強い芳香を持つ「檜葉(ヒバ)」で作られています。湯船に浸かりながら、竹と葦を編み込んだ伝統的な「下地窓(したじまど)」越しに、庭を眺め、鳥のさえずりに耳を傾けることができます。

 
 

手すり ー 心地よさを支える、さりげない意匠

2階へ続く階段の、手によく馴染む滑らかな手すりに驚かれることでしょう。こうした細部への配慮や、各階にトイレを設置し、夜間に階段を上り下りする必要がないという便性が、あらゆる世代のお客様に安心と快適さを提供します。

 
 

東西‧新旧の融合

2階は驚くほど明るく開放的です。西洋の美意識と日本の伝統が静かに溶け合い、新しさと古さという二つの世界が、まるで最初からそうであったかのように自然に共生しています。

緻密に設計された天窓からは、直射日光による熱を避けつつ、常に柔らかな自然光が差し込むようにデザインされています。

 
 

既存の土壁を背景にした造作ライブラリーは、「源氏京都」のロビーの面影を宿します。漆和紙をあしらった棚には、私たちが共有したい本やアートピースを並べていますが、お客様ご自身の愛読書や旅の思い出を飾っていただくための場所でもあります。

Library and curios cabinet for both hotel and guests.

Library and display cabinet with cubicles motif in Genji Kyoto’s lobby.

Genji Kyoto’s lobby bar with 33 cubicles.

自由で軽やかな1960年代イタリアのヴィンテージデスクとチェア。読書にふけり、筆を走らせ、あるいはノートパソコンを開いて過ごすうちに、この場所への愛着が静かに芽生えてくるのを感じるはずです。いつしか、あなた自身がこの空間の一部になっていくような、心地よい一体感に包まれます。

 
 

書斎をはさんで、片側には畳の香る和室、もう一方には洋室。それぞれが異なる世界観を奏でています。

 
 

日本の美意識

床一面に敷き詰められた畳、床の間、そして座卓。この和室は、簡素なものの中に美を見出すという、日本の「引き算の美学」が最も色濃く現れる空間です。季節を愛でる生け花、違棚(ちがいだな)に並ぶ思い出の品々、そして床に置かれた行燈(あんどん)の柔らかなあかり。ただそれだけで、心は鎮まり、禅の精神にも通じる澄み渡った心地よさが訪れます。

私たちは、ミニマルなインテリアが持つ「渋み」つまり、奥ゆかしく洗練された趣を尊重しながらも、この建築の魅力を引き出し、ゲストの快適さを高める特別な工夫を凝らしました。もとの窓は外へと張り出す出窓に改装され、鴨川の景色や街並みの風情を望むことができます。町家において、このようなガラスの開口部を設けるのは稀なことですが、この町家では築135年の家屋に元から備わっていたかのように、自然に馴染んでいます。

 
 

また、この空間にふさわしい「畳の家具」にもこだわりました。低座のテーブルセットはムーサス氏のデザインによるもので、ダイニングにあるローズウッドのテーブルの一部から作られた、世界に一つだけの品です。椅子は一般的な座椅子よりも少し高めに設計されており、長い時間座っていても驚くほど快適に過ごせます。このテーブルセットでお茶や食事を楽しみ、心地よい出窓に腰掛けながら読書をしたり、川沿いの日常を眺めたりーそんな贅沢なひとときをお過ごしいただけます。

 
 

主寝室 - 優しさに包まれる寝室

和室が静謐な隠れ家であるならば、この主寝室はそれに劣らぬ安らぎに満ちた「心から落ち着ける場所」と言えるでしょう。

むき出しの梁や土壁が持つありのままの有機的な美しさに対し、パリッとした白いシーツとふわふわの枕が整えられた贅沢なベッドは、まるで雲の上でお昼寝をしているような心地よさです。キングサイズベッドの上には、東本願寺の壮麗な屋根を写し出したフォトアートが飾られています。それは、このリノベーションされた町家と同じように、伝統的な職人技を現代的に表現した作品です。

 
 

また、ガラスの引き戸を開ければ、そこは「浮世ノ庭」を見渡すミニテラスへと繋がります。

収納スペースも充実しており、ベッドの両脇には開放的な飾り棚とクローゼットを完備。さらにヴィンテージの箪笥や、現代的でミニマルなハンガーラックも備わっています。お出かけ前のチェックに欠かせない姿見も、見つけていただけるのを待っています。

京町家のしつらえ

この町家のすべての部屋は、ふすまや時代物の建具で仕切られています。閉じれば静かなおこもり空間に、開け放てば光と風が通り抜ける一続きの間へと姿を変えます。ふすまには、伝統的な「京からかみ」を採用しました。光や音を穏やかに遮るため、半透明の障子よりも落ち着きある空間を演出します。一枚一枚、手押しで施された文様は、控えめながらも視覚を愉しませる繊細な装飾となっています。

この町家において、余計なものを削ぎ落とした先に宿る究極の美、すなわち「渋味」を最も体現しているのは、ふんだんに使われた木の存在です。

この家は、木、土、漆喰というすべて自然の素材で形作られています。可能な限り元の梁や板材を保存し、土壁や漆喰壁は丁寧に補修して塗り直しました。構造材や床、天井、そして建具の枠などに新しい木材が必要な箇所には、その用途にふさわしい高級の木材を選び抜き、熟練の職人たちが細部まで精巧に作り上げています。

 
 

新しい木材は色が明るいため、新旧の対比は一目でわかります。木の魅力のひとつは、時とともにその美しさが進化していくことです。使い込むほどに色や質感が変化し、深みのある個性が宿る。それこそが「渋味」の本質なのです。

2025年12月に「源氏町家別館」がオープンしたときはまだ、表の窓枠は淡い色をし、ガラスブロックの前に植えられた木賊(トクサ)も、膝丈に満たない高さでした。しかし、時が経てば木の色は深まり、草木は健やかに伸びていくことでしょう。この町家は、歳月を重ね、慈しみを持って手入れされることで、より豊かな風合いと美しさを増していくのです。

Next
Next

京都の紅葉ライトアップ情報 2025